(独)国立健康・栄養研究所 「健康食品」の安全性・有効性情報

世界保健機関

「生薬について」

人類は400万年という長い歴史の中で、身の回りの植物、動物、鉱物のすべてを含む天然産物から、病気と戦う武器としての数多くの「 薬」を見つけ、その知識を大切に伝承する努力を続けてきた、天然産物である薬を、いざというときのために備蓄して有効に使うため、さらに貢ぎ物や交易のための有力あ商品としての価値が生じてくると、そのためにも穀物などと同じように保存、運搬が可能な形に加工する技術が出現してくる。

このように植物や動物、鉱物の適当な部分を取り分け、医薬としての価値を失わず、利用しやすく、保存、運搬にも便利な形に加工したものを「生薬」 crude drug , rohe Droge という。加工の基本は乾燥であり、乾燥することは生物自身が持つ酵素反応を妨げ、カビ、虫害、腐敗なども防ぐことが出来るもっとも容易で経済的な方法である。

英語で drug は一般的な薬を指し、生薬を crude drug と言っているが、drug もドイツ語の Droge も乾いたとか、堅いという意味のアラビア語を語源にしたものである。

日本でも、民族伝来のすぐれた民間薬が多数あるが、7世紀ごろから中国の古典医療体系である漢方とともに伝えられた中国伝来の生薬と併せて、よく利用されてきている。アジア、アフリカ、南北アメリカはもちろんのこと、西洋においてもギリシア医学を発端として発展し、生薬による治療が今日なお広く行われている。

新鮮な植物や生薬を使う伝統的な利用形態も、依然として行われているが、さらに使いやすい形にしたエキス製剤や、有効成分を取り出して使う天然物医薬品の製造原料として使う利用形態が著しく成長してきている。

日本国内においては、一部の生薬を除いて、生薬は生薬類似食品として分類され、健康商品として販売されている。
生薬は1000~1500年も前の中国薬学書にすでに記されているものであり、われわれは今さらながら「生薬」のその古さとともに、現在もなおその薬効の確実性が高く評価されていることに驚かざるを得ない。

現在市場に販売されている医薬品には、合成薬またはいわゆる「新薬」が圧倒的な勢力を示してはいるが、モルヒネ、コデイン、アトロピン、スコポラミン、レセルピン、エフェドリン、エルゴメトリン、エルゴタミン、キニジン、ピロカルピン、ジギトキシン、ジゴキシンなど、医療上今もなお必須の薬品が、極めて古い歴史を持った生薬からの抽出物あるいは生薬成分の追求から生まれた化合物であることを忘れてはならない。